Addict -中毒-
何だか嫌な予感、と言うのかしら。とにかくそんな不穏なものを感じ取って、
私は慌てて萌羽が住むマンションまで向かった。
萌羽のマンションは芝公園の近く。数年前に購入した中古マンション。
アイボリー色の外壁が清潔感と落ち着きを漂わせていて、なかなか洒落た外観だ。
高級マンションとまではいかないまでも、女性が一人住まいをするには十分なマンションだ。
入り口のエントランスで、部屋に繋がるインターホンのナンバーを押すとき、
このマンションにくることなんてはじめてでないのに、やけに緊張して指先が僅かに震えた。
一度押しても反応がない。
もう一度押したときに、背後から誰かがこのエントランスに歩いてくる気配がした。
三十代の夫婦のように見えた。日曜日だと言うこともあってか、夫婦のような男女は買い物袋を下げて、こちらに向かってくる。
ここの住人なのだろう。
二人は世間話をしながら私の背後で脚を止め、エントランスからエレベーターホールへと続く自動扉の開錠キーパッドを待っている。
先に譲るため、そして半分諦めの気持ちを抱いたのもあって、私はそのキーパッドから離れようとした。
そのときだった。
『―――…はい、どちら様?』
萌羽のくぐもった声がスピーカーから聞こえた。
思わぬ反応に私はみっともないほど慌ててキーパッドに向き直った。
「萌羽!私よ、紫利。ねぇ、ちょっと話したいことがあるの。開けてくれる?」
『……姉さん……』
私が答えると、萌羽が息を呑む気配があった。
だがしかし、返ってきたのは冷たい一言。
『話す事なんてないわ。帰って』