Addict -中毒-
タバコ一本を灰にして、私は喫煙ルームを出ようとした。
そのときに私の携帯に電話が掛かってきた。
バッグの中で携帯が震えて、私は慌てて取り出した。
着信:恵比寿バー
となっていて、私はドキリとして思わずその場で立ち止まった。
『よーっす』
実に一ヶ月半ぶりだと言うのに、啓人は何事もなかったように掛けてきた。
それにしてもこの声―――とても近い。
私が思わず振り返ると、喫煙ルームのガラスの扉の向こう側に啓人が軽く手を上げてにやりと笑っていた。
「……啓人……どうして…?」
思わず呟いて、だけれど私はこの部屋を出ることはせずガラスの向こう側の啓人をただただ唖然と見つめるしかなかった。
啓人はにこやかに手を振ると、ガラスの壁に背をもたれさせた。
携帯を耳に当てたまま、向こうもこの部屋に入ってくる気配はなかった。
私も彼のすらりと高い身長に背中を合わせるよう壁に背をついた。
「どうしたの、ここホテルよ?昼間っからお盛んね」
思わず嫌味を言ってやると電話越しに、壁越しに啓人はちょっと笑った。
『まさか。まだお昼ですよ、おねーさん♪
俺、こう見えて昼は真面目なんですよ』
「あんたが真面目?」
『不真面目なのは夜だけ』
またも軽口を叩いて笑う啓人。
『仕事の打ち合わせだったのよ~。
ホテルのロビーの宴会場案内に紫利さんの旦那がいる大学の教授会の案内が出てたから、居るかな~って思って』
「それでわざわざ確かめに来たの?旦那に見つかったらどうするつもりよ。
もしかして楽しんでる?悪趣味ね」
言ってやると、
『そんなつもりじゃないって。
ただ単に
会いたかったから』