Addict -中毒-
きっと帯のせいね。
着崩れを防ぐためにいつもよりきつめに締めたから。
部屋番号が何番なのか啓人は口にしなかった。
あとで連絡する、と言う意味なのだろうか。
それでもいつもは早々に通話を切るって言うのに、今日に限ってはなかなかその気配を見せなかった。
『なぁ、俺ずっと待ってたんだ。
“カレーシュ”で』
突如言われて、私は目をまばたいた。
またも振り返ると、啓人は首だけを振り返らせて少し寂しそうに笑っていた。
ずっと―――……?
いいえ、この男の言葉なんて信用できない。
もっともらしく悲しい顔なんてしちゃって。演技派ね。
私はその手には乗りませんよ。
そう言う意味で、口元を引き締めていると、
『25年間の中で一番寂しい夜だったぜ?周りはカップルばっかりの中、俺だけ一人でジャズ聞いてんの。
虚しいっちゃありゃしねぇ』
とカラカラ笑ってるし。
だけどすぐに表情を引き締めると、
『カレーシュってどう言う意味だか知ってる?
四輪馬車だって。
馬車で紫利さんを連れ去りたかったんだけどな』
啓人はまたもちょっと寂しそうにうっすら笑って、今度こそ携帯を遠ざけた。