Addict -中毒-
いつもギリギリのラインで、繋ぎとめられた。
どんなに決意しようと、どんなに否定しようと
でも私は結局彼の甘い言葉に流され、彼の優しい温もりの腕を引き剥がすことはできなかった。
だけど
啓人の腕は抱きしめてくれることはあるけれど、その手を繋いで
未来をともに歩くことはできない。
分かっていたのに、その事実から目を逸らそうとしていたのは私。
でも、これで終わり。
ホテルの窓を向いて、私は白い長襦袢姿で夜景を眺めた。
窓に照明が反射して、部屋の内部と外の景色二つの景色を同時に映し出している。
灰色のビルが連なる東京の街、そして白いシーツの上でタバコを吹かせている啓人。
その様子を見ないようにして、腕を広げて着物の袖を通す。
前身ごろを合わせようとしたとき、啓人が私のすぐ背後に立っていることに気付いた。
またも繋ぎとめようとしているのかしら。
手を……払わなきゃ……
そう思っても
彼の纏う香水にふわりと包まれて、前で合わされていた手の力が抜けた。
長襦袢の上を絹で仕立てた紫色の辻が花の着物がするりと肩から滑り落ちる。
啓人は私の背後から着物の合わせ目に手を伸ばし、
「綺麗だ」
たった一言囁いた。