Addict -中毒-



左から二番目のカウンター席。


ここが私のお気に入りの席。


「シャンディガフをお願い」


きっちりとした黒いバーテンベストを身に纏い、佇まいが上品な顔なじみのバーテン、いつも最初の一杯目はシャンディガフを。


「かしこまりました」気品がある姿勢で頷き、彼は入り口の方にふと視線を送った。


「いらっしゃいませ」


私は入り口の方を見なかった。


敢えてそうしなかった。


誰が来たのか分かっていたから。





名前も知らない若い男はカウンターの右から二番目に座る。


その左横に、いつも違う女を座らせて。


あるときはモデルのような若くて可愛い女。あるときは上流階級の世間知らずなお嬢様風の女。あるときはキャリアウーマンみたいにデキそうな女。


彼が連れ歩く女たちは、誰もが美しかった。





「ギムレット」






名前も知らない彼の一番最初は、いつもギムレット。


しっとりと落ち着いた、耳に心地よい低い声。


それはちょっとくすぐられるような甘さを滲ませている。





私は今日もその声に耳を傾ける。







< 6 / 383 >

この作品をシェア

pagetop