Addict -中毒-
左から二番目のカウンター席。
ここが私のお気に入りの席。
「シャンディガフをお願い」
きっちりとした黒いバーテンベストを身に纏い、佇まいが上品な顔なじみのバーテン、いつも最初の一杯目はシャンディガフを。
「かしこまりました」気品がある姿勢で頷き、彼は入り口の方にふと視線を送った。
「いらっしゃいませ」
私は入り口の方を見なかった。
敢えてそうしなかった。
誰が来たのか分かっていたから。
名前も知らない若い男はカウンターの右から二番目に座る。
その左横に、いつも違う女を座らせて。
あるときはモデルのような若くて可愛い女。あるときは上流階級の世間知らずなお嬢様風の女。あるときはキャリアウーマンみたいにデキそうな女。
彼が連れ歩く女たちは、誰もが美しかった。
「ギムレット」
名前も知らない彼の一番最初は、いつもギムレット。
しっとりと落ち着いた、耳に心地よい低い声。
それはちょっとくすぐられるような甘さを滲ませている。
私は今日もその声に耳を傾ける。