Addict -中毒-
ダイニングテーブルの上に私は缶ビールを置いた。
プルタブを開けて、中の液体をグラスに注ぎいれる。
それを蒼介はゆっくりとした動作で口に含んだ。
「珍しいわね。蒼ちゃんが飲みたいなんて」
前述した通り、蒼介はまったくの下戸だ。グラス一杯のビールでもすぐに顔が赤くなる。
「うん。ちょっと飲みたい気分だったんだ」
蒼介はそう言い、またもグラスに口をつけた。
何かあったのかしら…
それとも私の行動を疑ってる―――?
彼の青白い顔から、何を考えているのか表情を読み取ろうとしたけれど、それはできなかった。
元々あまり感情を表に出す人じゃないから、分かり辛いっちゃ分かり辛いんだけど。
この人に感情というものが欠落している気がする。
おっとりと優しく何かに怒ったり、激しく取り乱したりしたところを見たことがない。
毎日ほとんどと言って変化のない研究を繰り返す行う研究者という職業にはうってつけの性格だ。
啓人には無理そうね。
気が短そうだもの。
彼のことを考えて、ふっと頬が緩むのを感じ、私は慌てて冷蔵庫の中を覗いた。
「おつまみに何か食べる?チーズでも…」
そう言いかけて、テーブルの方を見やると、蒼介が少しだけ眉を寄せて私の方を見ていた。
「蒼ちゃん……?」
蒼介はグラスをテーブルに置くと、ちょっとまた悲しそうに笑う。
「僕は酒もタバコもやらないから…紫利ちゃんはつまらないだろうね。…ごめんね」