ラヴァーズ
「ついた…」

「こっちよ」

華月が俺の手を掴んで受け付けにむかう。たくさんの患者やその親族たちで賑わっている、とても田舎の病院とは思えない病院だった。いくつかの棟にわかれていた。

「魚井雪夢さんはどこに?」

「あぁ、はい。ご案内いたします」

看護師さんがにっこりとした笑顔を浮かべてカウンターから出てきてくれた。俺はまた、華月にひっぱられながらふたりの後に付いていく。

少し歩いて、渡り廊下らしきところを曲がる。

「雪夢さんの昔のお友達?」

「あ、はい。こいつが」

「あら、そうなの」

看護師が朗らかに笑う。華月も笑いかえしていたが俺はただ、はやく案内をしてくれと気が急いていた。

「……でも、…………彼女の症状は、知らないんです」

そう華月が看護師に言うと、看護師の笑顔がなくなり、驚愕したように目を見開き始めた。

「…あっ、………あ、そうなの…」

本当に驚いたように、そして、困ったように、戸惑ったように歩みを止めた看護師。名札には水田とかかれていた。

「……どうしましょう…」

焦った時の癖なのか、神経質そうに前髪を何度も撫で付けたり梳いたりして整えはじめた水田さん。

「ちょ、ちょっとまってて、」

両手で俺達にそう、制止をかけた水田さんは、すぐに元来た道を慌て気味に走りだした。

華月が俺の傍でこっそりと呟く。

「…彼女、きっと新人よ。見たことないし、きっと今、上司を呼びに行ってる」

「……行くぞ」

水田さんには逆らってしまうが、俺は一刻も早く雪夢に会いたいのだ。華月の腕を引いて、俺はまっすぐ歩きだした。

華月の腕をひっぱってしまったのは、きっと、怖かったからだ。

雪夢が、どんな病気で、どんな状態なのか、

水田さんの反応を見るかぎり、普通の状態ではないのが、何となくわかってしまったから。




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