ラヴァーズ
次の日、電話ではなく、呼び出されたオレは何も持ってくるな、と言われていやな予感がした。

「ダメだっていわれたわ」

「……なら自力でいく」

「…母さんに、病院に行くこと、ダメだなんていわれたこと、ないのよ」

「気が変わったんじゃないのか?」

「あのねぇ、あたしは看護師になりたいと思ってんのよ。それに一番賛成してるのは母さんなの。だから反対なんてするほうがおかしいと思うのよ。病院もそれは許してくれてるし、母さん、理由も言ってくれなかったわ」

たしかに華月は高校の看護科の生徒だ。オレは普通科。

「病院が華月つれてくんなっていったんじゃねーの?」

「それは母さんにちゃんと聞いたわよ。違うって言ってたわ」

「……ふぅん」

とにかく住所を聞きたい。まぁ、最低、ネットで中村医院を調べたら出てくるだろうが、中村なんて名前の病院、きっとごまんとある。めんどうくさいじゃないか。一刻も早く、雪夢に会いたいのに。

「……なら、あたしもついていく」

「はぁ?」

「あら、つれていってくれないならネット検索して何件もある中村医院を一件一件まわって無駄足ふんでくやしがることになるわよ」

おどしだった。

「それに、ちゃんと場所は覚えてるわ。小さい頃から何度も行ってるから」

くすり、いたずらっ子みたいに華月が笑った。

オレはあきらめたようにうなだれ、わかったよ、とつぶやいた。

「じゃ、用意ができたらすぐに駅前ね!」

夏空に飛行機雲が入道雲から出ていくのが見えた。






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