ラヴァーズ
「母さん、ちょっと今日帰り遅くなる」

「あら、お出かけするの?」

「うん。ちょっと」

「そう。いってらっしゃい」

うん、とこたえてあたしは家を出た。

夏の暑い日。



どうして、元カレの探している恋敵を一緒に探そうと思ったのか。

ただ、どんな子なのか、見てみたくなったのだ。

冬威は、運動神経抜群で、勉強もできるし、顔もいい。だから、そんな冬威に惹かれる女は呆れるほどいた。

そして、別れる女も同じ数だけいる。

それは、ここ約半年間で、なぜか急激に増えた。

それはたぶん、消えた幼なじみを探し続ける冬威に嫌気がさしたのだろう。三日も経たずに別れたというのも聞いたことがある。

きっとあたしの三ヶ月は珍しいほうだったのだろう。

どうしてか、冬威には手放したくなくなる、変な魅力があった。あたしはそれに惹かれ、結局痛い思いをしただけ。

あたしみたいな子が、もう生まれないように、

そして、冬威がそこまでして追い掛ける幼なじみを、あたしは見てみたいから

こうして冬威が幸せになる道へ、案内してあげてるんだ。

━━それが、冬威にとって残酷な道への案内だなんて、あたしは少しも疑ってなんかいなかった。

母さんがどうして病院に、井川冬威を連れて来ちゃダメだって言ったのを、もっとよく、考えるべきだった。






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