君の花嫁
「お父さん…ちょっとどういうこと?」
雰囲気に堪えかねて、困惑気味に小声で隣の父に話かける。
突然、着物を着せられ連れて来られたのだから説明くらいは欲しかった。
しかしお父さんは小さく切なそうに微笑んで私を見ている。
……お父さん?
その瞳に戸惑っていると父は渋々といったように口を開いた。
「あのな、真琴……」
父が何かを言いかけたとき、部屋の襖がスッと開いた。
振り替えると、入って来たのは背の高い恰幅のいい中年男性だった。
太ってはいないが、体がガッチリしている。
存在感やオーラのある人ってこういう人なのかもしれないと思わせる人だ。
男性はこちらに目を向けると笑顔をみせた。
「綾川君!久しぶりだね。元気だったかい?」
「ええ。雨宮先輩こそお変わりないようで。」
父とその男性はニコヤカに握手をしている 。
どうやら父の知り合いだとわかった、
「奥方も相変わらずお綺麗だ」
「やですわ~、雨宮さんったら」
母は褒められ、嬉しそうに頬に手を当てた。
二人とも知り合いなの?
チラッと目の前の男の子に目線を送ると、変わらずの無表情。
つまり、この男性も含めて何も知らされていないのは私だけだと悟ったのだった。