朝が待てなくて

車を降りてからかなり歩いて…二人で行った小さな湖は林の中にひっそりとあった。


道路に案内の矢印があったわりには、誰も訪れたことのない未開の地に踏み込んだような趣きがある。


夕方になってもまだ明るい空を、木々の緑を、ときどきツーと飛ぶ鳥たちを映して、湖面はシンとしていた。




「わぁ…きれい」


「おー、死体が浮いてるような池だったらどうしようかと思った」


薄暗い木立を抜け、忽然と姿を現した湖面を眺めながら、二人して感嘆の声をもらす。



「神様が棲んでいそうな湖だね」


「けがをしてもここで洗えば治っちゃう、みたいな?」


「そうそう、アシタカが生き返った湖!」


はは、と樹が笑った。


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