ありふれた恋を。

『去年同じクラスだったからなんとなく知ってるんだけど、あいつ弘人先生のこと好きなんだと思う。』

「うん。」


初めて話したときに聞いた、先生が好きだという彩ちゃんの気持ち。

あんなに堂々と言うのだから、きっと今までも隠そうとしたことはないのだろう。



『ちょっとでも弘人先生に近付いたり仲良く話してるヤツ見るとすぐ声かけて、私は先生が好きだからって宣言して、誰にも近付かせないように圧かけるって。』


いつも学年の中心にいて外見も言動も目立つ彩ちゃんに言われれば、大抵の女子は慄くだろう。



「でも私、滝本先生と仲良く話したりなんて…。」


話していたのはあの部屋や、お兄ちゃんの部屋。

彩ちゃんに見られるような場所で親しく話したりしていただろうか。



『だよなぁ。』


伊吹くんは何ひとつ疑わない様子で首を傾げる。

その間も私は、これまで先生と話してきたことを思い出していた。

彩ちゃんが見ていそうな場所で話してはいなかったか、心の底にしまっていた思い出を振り返る。


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