ありふれた恋を。

忘れようとしていても、先生のことはすぐに思い出せる。

そのことが、先生がこんなにも私の中に色濃く残っていることを気付かせる。



『俺に声かけてきたのも、弘人先生に近付きたいからなのかな。』

「仲、良いもんね…。」


伊吹くんはいつも先生と一緒にサッカーをしている。

私が教室から先生を眺めていたとき、その輪にはいつも伊吹くんがいた。



『うん、良い先生だよな。サッカーも巧いし。』


そういえば、伊吹くんが先生と一緒にサッカーをしていたのは決まってお昼休みだった。

私と一緒にお弁当を食べるようになってから、伊吹くんはあのサッカーには参加していないのだろうか。



「ねぇ、」

『もし…』


そのことを聞こうとした瞬間、伊吹くんも何かを言いかけて私は言葉を止める。



『もしこれからも倉島に絡まれて困るようならいつでも言えよ。』

「え?」

『有佐は弘人先生と関係ないって言ってやるから。』


いつも明るい伊吹くんの、ほんの少し低くなった声から本気で言ってくれていることが伝わってくる。



「ありがとう。」


関係ない。

関係ないのだ。

私と先生は。


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