ありふれた恋を。
『へぇー有佐。伊吹って大人しめがタイプだったんだな。』
『一緒にお弁当食べてるらしいぜー。』
『え、誰?どの子?』
その名前に、一斉に様々な声が上がる。
既に知っていたらしい者もいれば、クラスが違う為ピンと来ていない者もいる。
『さすが伊吹だな。』
そんな中で、1人の生徒がしみじみと呟いた。
最初に伊吹が来ないと言った2組の黒木という生徒だ。
部活には入っていないが毎日参加している。
『何が?』
ボールは黒木の足元で動きを止めたままだ。
さすが、という言葉の意味をすぐに理解できない生徒たちの視線が黒木に集まる。
『だって有佐って良い子じゃん。皆が面倒くさがってやらないこととか自分からやってるし、大人しいけどいつもニコニコしててさ。』
よく見てるなと思った。
俺が有佐を気に留めるようになったのも、そんなところからだった。
『俺去年同じクラスだったから有佐のこと知ってるけど、いかにもクラスの中心みたいな派手なヤツじゃなくて有佐みたいな子に行くところがさすが伊吹だよな。ちゃんと人柄を見てる感じがする。』
悔しいけど、同意だった。