ありふれた恋を。
放課後、何かと口うるさい教頭から逃れるように職員室を出る。
生徒と距離が近過ぎるだのなんだの、自分の距離感を押し付けられても困る。
『弘人先生ー。』
いつも通り勝手に隠れ家にしている空き教室へ向かっていると、後ろから声をかけられる。
振り返ると練習着姿の伊吹がいた。
「おう、これから部活か。」
昼休みに聞いたことが頭を過ぎるけれど、できるだけ平常心を心がける。
『うん。また先生とサッカーしたいっすわ。』
「なんだよ、彼女できたんだろ?」
なのに、ニコニコと笑う伊吹を見ていたら自然とそんな言葉が出ていた。
とても爽やかで、曇りのない笑顔。
伊吹なら有佐を泣かせたりしないんだろうなと、嫉妬や焦りよりも安心感を与える笑顔。
『え?なんすかそれ。できてないっすよ。』
「え?」
『え?』
そんなことまで考えていたのに伊吹はあっさりと否定して、俺も伊吹もまぬけな声が出る。