ありふれた恋を。

「でもあいつら言ってたぞ。最近伊吹が来ないのは彼女ができて一緒に弁当食べてるからだって。」

『はー?』


先程より何倍もまぬけな声を上げる伊吹に嘘をついている様子はない。

…本当に、付き合っていないのだろうか。



「違うのか?」

『一緒に弁当食べてるのは事実ですけど、まだ付き合ってないっすよ。』


まだ。

まだ付き合ってはいないけれど、伊吹は確実に有佐のことが好きだと分かる言い方。



「そうか、まだか。」

『…弘人先生だから言うけど、結構前から好きだったから。勢いじゃなくて、ちゃんと丁寧に行きたいんです。』

「有佐、だよな?」


分かりきっていることなのに確認してしまったのは、最後の望みを持ちたかったからだろうか。

勢いじゃなくて、丁寧に行きたい。

まっすぐで純粋な綺麗すぎる恋心ならば、向けられていたって有佐を困らせないはずなのに。



『はい。』


たった一言の返事。

しっかりと俺の目を見て答えたその一言に、何か鋭い想いを感じ取る。


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