ありふれた恋を。

部活に所属している生徒以外はほとんどが下校した放課後の校内はとても静かで、やけに足音が響く。

その後でコンコン、という控えめなノックが聞こえたとき、笠井先生が呼びに来たのかと思った。

あまり職員室を空けるのも良くないと、たまに呼び戻しに来てくれる。


だからドアを開けたところに俯きながら立っていた人の姿に、ただただ驚いた。



「有佐…。」


そこにいたのは、今の今まで考えていた有佐本人だった。



『ごめんね、先生。もうここには来ないって決めてたんだけど…』

「…どうした?」


久しぶりに近くで聞いた有佐の声は、とてもか細く震えていた。

そのとき遠くで複数の女子生徒のはしゃぐ声が聞こえて、弾かれたように有佐が顔を上げる。

ここに来ているところを誰かに見られてはいけないと思ったのだろう。


その不安気な表情を見た瞬間、俺は有佐の手を掴みこの部屋へと引き寄せていた。


驚いて顔を上げる有佐と同じくらい、俺自身も驚いていた。


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