ありふれた恋を。
あまり期待せずに笠井先生をチラっと見上げる。
笠井先生には、ハードルを上げておきながら結局大したことを言わないという印象がある。
一年のときも担任だったし、笠井先生にはお世話になっているから分かる。
30代前半の笠井先生はいつも明るくて接しやすくて、滝本先生に会えなくて寂しい時は無駄に明るい笠井先生にカバーしてもらっていた。
『滝本先生ならな、』
不意に笠井先生が口を開く。
…え?滝本先生?
その名前に一瞬で胸が高鳴る。
『滝本先生なら、2階の隅っこがお気に入りだよ。』
「え?隅っこ?」
隅っこって何だ、隅っこって。
『そうだ、隅っこだ。たぶん今もそこにいると思う。約束を忘れられた可哀想な有佐にだけ教えてやるよ。』
じゃあな~と言って去っていく笠井先生の背中に「ありがとう!」と叫ぶと、笠井先生はヒラヒラと手を振った。
…良い意味で期待を裏切られた。
まさか笠井先生からこんな有力な情報が得られるとは。
“忘れられた”ってのは今は聞かなかったことにして、とりあえず隅っこへ行ってみよう。