ありふれた恋を。
「俺のことは気にしなくて良いから。」
『先生に、迷惑かけたくないのに…』
まるで俺の言葉など耳に入っていないかのように繰り返す有佐に、今かけてやれる言葉を見つけられない。
『どうしても、先生に会いたくなって。』
はっきりと、手を握る力が強くなったのを感じた。
なぜ有佐がここに来たのかは分からない。
迷惑をかけたくないと言いながら、それでも救いを求めてここに来た。
そんな有佐に応えてあげることと、気持ちを抑え込むこと。
今俺がとるべき行動は間違いなく後者なのに、気持ちが揺さぶられて仕方ない。
『ごめんなさい。』
俺が迷っていることを困惑と捉えたのか、有佐が我に返ったように手を放す。
一瞬だけ上げた顔に涙の跡を見てしまったとき、もう気持ちを抑えることはできなかった。
『え、先生…?』
今だけじゃない。
近くで接することができなくなったあの日からの全ての想いと一緒に有佐を抱き締める。