ありふれた恋を。
胸の中に閉じ込めた有佐が遠慮がちに俺のシャツを掴む。
間違っていることは分かっている。
あの日必死に抑えたはずの想いを台無しにしてしまったことも分かっている。
それでも今、この腕の中にいるこの子を守りたいと確かに感じていた。
『倉島さんが…』
「え?」
胸に顔を埋めながら、有佐が呟く。
大丈夫、もう泣いていないと安心したのと同時に突然出てきた名前に心臓が跳ねる。
倉島。
俺と有佐は仲が良いとあっさり言ってのけたあのときの顔を思い出す。
「倉島がどうかしたのか?」
『………。』
それっきり黙ってしまった有佐が、もう1度強くシャツを握る気配がした。
やっぱり泣いているのかもしれない。
倉島に何か言われたのか、されたのか。
嫌な予感はほとんど確信に変わっていた。
「有佐。何があったか言ってみろ。気なんか遣わなくて良い。」
きっと有佐は、倉島の知らないところで勝手に話をすることに後ろめたさを感じている。
だけどそんなものは必要ない。