ありふれた恋を。
さっきまで座っていた椅子に有佐を座らせ、俺は窓枠にもたれる。
『伊吹くんか先生、どっちかにしろって。』
「え…?」
その名前に、再び心臓が跳ねる。
伊吹。
有佐のことを好きだと言い、俺に有佐との何かを聞きかけた伊吹。
『私、最近伊吹くんとお弁当を食べたり一緒に帰ったりしてるんですけど、倉島さんはそのことを知ってたみたいで。』
倉島がそのことを知っていたとしてもそれはどうでも良い。
肝心なのは、その後だ。
『伊吹くんと仲良くするなら、もう先生には近寄らないでほしいって…。』
有佐から俺に近寄ってきたという記憶を、頭の中から探し出そうとする。
だけど見つからなかった。
有佐が俺に近寄ってきたことはない。
タイミングが俺たちを近付けただけだ。
「倉島は、何を見てそう言ったんだろう。」
そんな俺たちを、倉島はいつもどこからか見ていた。
だからこそ俺には有佐と仲が良いと言い、有佐には俺に近寄るなと言った。