ありふれた恋を。

『ねぇ、先生…?』


だけどその笑顔はすぐに影を潜めて、有佐が困ったように俺を見上げる。



「どうした?」


俺が答えても、有佐はしばらく躊躇っていた。

その表情に、ある想いが浮かぶ。

有佐が俺に聞こうとしていること。

それが何なのか分かったような気がした。



「もう好きじゃないから。前の彼女のことは。」

『え?』


俺の言葉に有佐がパッと顔を上げる。

そのすがるような視線から、どれだけ有佐が気にしていたかを感じ取る。



「ずっと引きずってた。嫌いになり切れずに何度も思い出した。でも有佐が好きだって言ってくれてから、俺の中には有佐しかいない。」


どうすればこの気持ちを本当だと伝えられるか。

ただちゃんと、誠実に言葉にするしかないんだけど、真実として有佐が受け取ってくれるか不安だった。



『ありがとう、先生。』


けれど有佐は、先程までの陰りが晴れてとても穏やかな表情をしていた。



『でも、良いんですよ。無理に忘れようとしなくても。』


だがそんな表情に安堵したのも束の間、有佐の言葉がまっすぐ俺にぶつかる。



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