ありふれた恋を。

『おはよう。』


翌日、登校すると伊吹くんに声をかけられた。



「おはよう。」

『昨日ごめん、練習長引いてさ。』


昨日私が先に帰ったのは自分が待たせすぎたせいだと思っていることに伊吹くんの優しさを感じて、小さく胸が痛む。



「ううん、私が勝手に。」

『気にせず好きなときに帰っていいから。一緒に帰れたら嬉しいってだけだし。』


その“それだけ”が、とても大きいのに。



『あ、倉島。』


これからは一緒に帰れないと伝えるべきかどうか悩んでいると、伊吹くんが小声で囁く。


私に先生か伊吹くんのどっちかにしろと言った彩ちゃん。

また何か言われるかもしれないと思ったけれど、彩ちゃんは何も言わずに私たちを素通りした。



『何あれ、無視?』


意外だった。

昨日彩ちゃんの言葉に何も答えなかったことを責められるか、何事もなかったかのように振る舞われるかのどちらかだろうと思っていたから。


だけど私と伊吹くんを見ても表情ひとつ変えずに去って行く姿に、なぜか背筋が凍るような冷たさを覚えた。


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