ありふれた恋を。

『お待たせ。』


その後も先生とメールのやりとりをしている内に時間は過ぎていて、伊吹くんの声にはっと顔をあげる。

少しずつ日が長くなり始める7月の空も暗くなり始めていた。


今日、伊吹くんに伝えようと思う。



「伊吹くん。」

『ん?』


いつも話を振ってくれるのは伊吹くんの方だから、今日はそれよりも先に私が切り出す。



「いきなりで申し訳ないんだけど…明日から、先に帰っても良いかな。」

『え?』


想像以上に固まった表情で伊吹くんが立ち止まったことに驚いて、私の足も止まる。



『…ごめん、やっぱ毎日待たせすぎだよな。』

「ううん、そうじゃないの。」

『毎日じゃなくて良いから。』


私の声が聞こえていないみたいに伊吹くんは続ける。



『たまにで良いから。俺はこれからも有佐と一緒に帰りたい。』


伊吹くんらしいまっすぐな言葉だけど、その目はいつにもなく儚げで。


すがるようなその視線が、私に次の言葉を出すことをためらわせる。



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