ありふれた恋を。
「ごめん…。」
『なんで?誰かに何か言われたりした?』
伊吹くんのことは学年、いや学校中が知っているだろう。
そんな生徒と私みたいな地味な生徒が一緒に帰るんだ。
いくらほとんどの生徒が下校した後だったとしても、そのことは意外と知られているのかもしれない。
伊吹くんは、それを分かっている。
「何も言われてないよ。ただ私が、もう一緒には帰らないって決めたの。」
『…そっか。』
その一言で、伊吹くんは全て分かったみたいに頷いて。
私がこれ以上何も言わなくても良いみたいに、全部受け入れたように笑う。
『有佐って律儀だよな。』
「え?」
『知らん顔してずっと一緒に帰ることだってできるのに。』
再び歩き出した伊吹くんの後を慌てて追う。
「それは…」
『それは俺に対して失礼だって思うんだろ?』
伊吹くんが言っていることはそのまま私の気持ちで。
人の気持ちが分かり過ぎてしまう伊吹くんの優しさが、それをそのまま提示できてしまう素直さが、今の私には綺麗すぎて心が痛かった。