ありふれた恋を。
『まぁ、これからも友達ってことでさ。よろしくな。』
「うん。ありがとう。」
その一言が私の精一杯だった。
本当のことだけを話してくれる伊吹くんに、私は何ひとつ返すことができない。
こんなにも確かな優しさを持つ伊吹くんではなくて、揺らぎやすく不安定な先生の傍に居ることを決めたのは私だ。
だからこそ、後々「やっぱりダメでした」なんかじゃなくて、大切に大切に育んでいかなくちゃいけない。
伊吹くんと別れた後もなんとなくそのまま帰る気になれず、辺りをぶらぶらと歩く。
先生に会いたくて、だけど会いたいと思った分だけ日の当たる場所で堂々と会えない現実を突きつけられる。
私は先生のどこを好きになったのか、そんなことをただぐるぐると考えていた。
先生としての優しさだけじゃなくて、生徒に対する向き合い方や姿勢、その全部が憧れで。
だけどお兄ちゃんから聞いた先生の印象はどこかだらしなくて。
前の彼女のことを引きずっていて、そのせいで傷を抱えていて。
完璧だと思っていた先生の弱さや不器用さに触れる度に、さらに先生のことを好きになっていった。