ありふれた恋を。

「忘れてたんですか?」


「ひどーい」と付け足して先生を見上げると、私を見下ろす先生と目が合ってしまった。

どうしよう、今かなりドキっとした…。


恥ずかしくてあからさまにオロオロする私とは違って、先生はそんなこと気にならないみたいに『ごめんごめん』とマヌケな声を出している。


そんな先生が救いのような…でも私だけ意識してるみたいで寂しいような…。


もう一度先生を見ると、先生はいつの間にか部屋の奥へ行っていて、机の上にプリントを広げている。



「先生、ここでするの?」


職員室とか教室に戻るんじゃなくて?

この狭い部屋で?

…二人きりで?



『ここじゃ嫌か?嫌なら教室行ってもいいけど、めんどくさいだろ?』

「…え?」


一瞬、聞き間違いかと思った。


めんどくさい…

めんどくさい…?


真面目で隙のない、この完璧な先生の口から出た言葉だとは思えなくて飲み込むまでに少し時間がかかる。


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