ありふれた恋を。

『なんだよあいつ。和哉が言い出したんだろ。』

「ほんとだね。」


玄関に残された先生と顔を見合わせて笑い合う。

お兄ちゃんはすぐに料理を再開したのか、ご機嫌なハミングが聴こえてくる。



『ほんと、あいつと居ると平和だわ。』


先生はそう言って微笑むと、私の頭をポンっとたたいて部屋へ入って行った。

取り残された私は急速に熱くなる頭に手をあててドキドキを静める。



『有佐ー 早く来いよー。』


先生の声に呼ばれて速いままの鼓動を抑えながら部屋へ戻ると、とても良い香りが漂っていた。



『腹減ったわ。何作ってんだ?』

『オニオングラタンスープ。』

『は?』


先生とお兄ちゃんの会話を聞きながら、先生がシミをつけたソファーに座る。


学校では見ることができない、先生の本当の姿をたくさん見たいと思う。

素の先生に、もっともっと触れたいと思う。


そしていつか、誰よりも先生のことを知っている存在になりたい。

今はまだ、前の彼女さんを超えられていないかもしれないけれど。


先生を想う気持ちだけは、絶対に負けないって思える。


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