ありふれた恋を。

『なんだこれ、めっちゃうまい。』

『だろー?今日の超自信作だから。』


お兄ちゃんが作ってくれたご飯を食べる先生の姿は学校じゃ絶対に見られないくらい自然体で、そんな姿を見るとなんだか得をした気分になってしまう。


♪♪♪〜


『あ、彼女から電話だわ。ちょっとごめん。』


不意に携帯の着信音が鳴って、画面を見たお兄ちゃんが部屋を出て行く。

また浮気だなんだと心配されているのだろうか。



『あいつも大変だな。』


微かに聞こえてくる『大丈夫だから』という声に先生が反応する。



「香奈さん良い人なんですけどね。」

『あいつが浮気なんてするわけないのにな。』

「でも不安になっちゃう気持ちは分かります。」


先生の彼女という立場になった今なら。

だからそんなことを言ってしまったのは無意識で、先生が黙ってしまったことにしばらく気付けなかった。



『有佐。』


学校で聞くのとは違う男性らしい声に鼓動が高鳴って顔を上げると、とても悲しげな表情をした先生の視線とぶつかった。


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