ありふれた恋を。
◆第三章◆
完璧教師の素顔。
【hiroto side】
忘れようとしても忘れることなんてできなかった。
見て見ぬ振りをしても心のど真ん中にあり続けていた傷が、ひとりの女の子によって少しずつ溶けていく。
優しさだけをあげるなんて、もうとっくに有り余る程の優しさをもらっているのに。
その1ミリでさえ返せているか分からないのに。
愛しいと感じる度にただ抱き締めることしかできなくて。
瑠未の存在の大きさを白状したせいで、「俺には有佐だけだよ」なんていくら言葉にしても信じさせてあげられないかもしれなくて。
自分が情けないくらい頼りなくて、情けないくらい有佐のことが好きだった。
『弘人先生。』
翌日の昼休み、いつも通りお遊びサッカーに付き合うため中庭へ向かっていた俺に声をかけてきたのは伊吹だった。
「おう、どうした。」
この前のことがあって、なんとなく身構えたことを悟られないようにさり気なく答える。
先生は、有佐と…
あのとき、俺に有佐のことを好きだと打ち明けてきたとき、伊吹は確かに何かを聞こうとしていた。