ありふれた恋を。
「先生でもめんどくさいとか言うんですね。」
改めて言ってみても、先生の口から“めんどくさい”という言葉が出るなんて意外すぎる。
『ははっ、そりゃ言うでしょ。』
「なんか意外です。」
自分がまだ入口に立ったままだということに気付き、おそるおそる部屋へと入る。
ドアを閉めると、完全に先生と二人きりになった。
『俺、実は結構めんどくさがりなんだよね。』
「そうなんですか?」
『うん。内緒な?』
先生はプリントを差し出しながらニコっと笑う。
イタズラっぽい笑顔が可愛くて、またドキっとしてしまった。
内緒…。
二人だけの、秘密…?
先生は、私がいちいちドキドキしていることに気付いているのだろうか。
椅子に座りプリントを見ると、確かに最後の方が空欄になっていた。
しかも、回答の途中で突然ピタっと止まっている。
…なんでだ。
自分で自分の失態に苦笑しながら、その続きを書き始める。
先生は斜め前の席に座り、他の生徒の採点をしていた。
私のプリントを指差して、『そんなの初めてだ。』なんて言いながら。