ありふれた恋を。
『ちょっと付き合ってもらっても良いですか。あいつらには、弘人先生借りるって言ってきたんで。』
「あぁ、良いけど…」
明らかにいつもと様子が違う伊吹に、俺の鼓動も早くなる。
俺の返事を聞き終わると無言で歩き出した伊吹が立ち止まったのは、閉鎖されている屋上へと続く階段の踊り場だった。
誰にも話を聞かれる心配がない場所を、伊吹なりに探したのかもしれない。
『俺、フラれました。』
「え?」
いきなり直球をぶつけられ、受け止める準備ができていないまままぬけな声が出る。
こいつ、有佐に告白したのか…?
『大事に行きたかったけど、大事にし過ぎてどこかの誰かさんに先越されたみたいで。』
いや、違う。
伊吹は告白していない。
伊吹の気持ちを知っていながら、先に有佐に想いを告げたのは俺だ。
大事に行かなきゃいけなかったのも、大事にし過ぎなきゃいけなかったのも、全部俺なんだ。