ありふれた恋を。

「いや聞く気満々じゃん。」

『違う!ちょっと待てって!』


慌てて指を閉じて耳を塞ぎ、今度は嫌だ嫌だと顔を左右に振り始めた。



『心の準備するからもうしばらく待って。』

『もうお兄ちゃん!』


どんどんと弱々しくなっていく声に痺れを切らした有佐が和哉の両手を掴み耳から離す。



『ちゃんと聞いてほしいの、お兄ちゃんには。』


妹からまっすぐにそう言われた和哉は、両手を有佐に掴まれたまま視線だけを俺に向けた。



「和哉。俺、有佐と付き合ってる。」


和哉は本当なのか?と確かめるような視線を有佐に向け、頷いた有佐の頭にポンと手を置いた。



『いつかこんな日が来るって分かってたけど…なんだよ夏波。弘くんかよ。』


その呟きが肯定的なのか否定的なのか分からずに、俺も有佐もただ黙って続きを待っている。



『弘くん…良かったね。』

「『え?』」


そして再び、俺と有佐の声が重なった。



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