ありふれた恋を。
「そういえば、和哉が話したいことって…?」
この部屋に来たとき、俺よりも先に何かを切り出そうとしていたのは和哉の方だった。
『うん。実はさ、この部屋を出て行こうかと思って。』
「え?」
思いもしなかった話に戸惑いに満ちた声が出る。
『ここ引っ越しちゃうの?』
『いや、引っ越しはしない。しばらくは家賃がもったいないけど…ここの契約は残したまま、香奈の部屋に行くことになって。』
そういうことか。
和哉と彼女はもう随分長い付き合いのはずだが、なかなか同棲や結婚という話は出ていなかった。
「良いのか、お前はそれで。」
話に付いて行けないという様子の有佐をひとまず視線で落ち着けて、話を進める。
和哉の彼女の香奈さんは少し過敏なところがあって、とにかく和哉のことを束縛していた。
そんな香奈さんにきちんと向き合って、そんなところも好きだからと愛情に変えてきた和哉だけど、だからこそ離れて過ごす時間も欲しいと言っていたことがある。