ありふれた恋を。

『里沙、お待たせ。』

『じゃあねー夏波!先生もまたねー!』


そこに里沙の彼氏の高井くんが来て、並んで帰って行く2人を先生と見送った。



「じゃあ、私も帰ろうかな。」

『有佐。』


2人が見えなくなったのを確認してから言うと、先生が私を呼んだ。



「先生またね。」


だけど私は、その声が聞こえなかったフリをして先生の前を通り過ぎてしまった。

なぜだろう。

先生の声が、先生のものじゃなくて2人のときに聞く声だったから。


ひとり帰り道を歩きながら、必死でざわめく胸を抑える。


もしかしたら聞かれていたのかもしれない。

私が里沙にデートが羨ましいと言ったことも、幸せのお裾分けを貰っていたことも。


ほんの数秒向けられた切なげな先生の目。


違うよ先生。


私はデートなんてできなくても、先生と家で会えるだけで嬉しいよ。

先生が居てくれれば、それだけで幸せなんだよ。


そう思うのに、さっき見た仲良く帰って行く2人の姿が頭から離れないのはどうしてだろう。



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