ありふれた恋を。

スープを温めながらオムライスをレンジへ入れる。

料理の香りに刺激され急に空腹感が襲ってきた。

時計を見ると20時半を指していて、そりゃお腹も空くはずだ。

長い会議を終えて帰って来た先生もきっとお腹を空かせているだろう。



「すぐできるんで、待っててくだ……えっ」


先生にかけようとした言葉は、最後まで言えない内に止まってしまった。

先生が、後ろからぎゅっと私を抱き締めてきたから。



「先生…?」


耳元で聞こえる先生の微かな息遣いと、背中に伝わる鼓動。

大きな身体と温かい腕に包まれて、私の心臓は今にも爆発しそうなくらい速く打っていた。



『ごめんな。』

「え?」


抱き締める腕の強さとは裏腹に、ごめんと謝る先生の声はとても弱い。

そしてなぜ謝るのか、その理由にすぐ思い当たってしまう。



『夏休みなのに、どこも連れてってやれなくて。』


やっぱり里沙との話が聞こえていたんだ。

堂々と一緒に居られる里沙と高井くんを羨ましいと思ったことも、きっと先生は気付いている。



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