ありふれた恋を。
「本当のこと言うと、里沙と高井くんを見て羨ましいなって思った。一緒に帰ったりデートに行けたり、誰の目も気にしなくて良くて…。」
ほんの少し、先生の腕の力が強くなったような気がして、私の胸もぎゅっと締めつけられる。
「でもね、それ以上に先生と一緒に居られることが幸せなの。どこにも行けなくても、大好きな人に会えるだけで、こうやって家で過ごせるだけで本当に幸せなんだよ?」
この言葉に先生を安心させてあげられるだけの説得力があるのかは分からない。
お願い伝わってと、先生の腕に手を添えようとしたとき先生の腕がするりとほどかれた。
「先生。」
その一瞬、先生がどこかへ行ってしまうような気がしてその腕を掴んだ。
『吹きこぼれる。』
先生は私に掴まれていない方の手でつけたままだった鍋の火を止める。
レンジの中のオムライスはとっくに温められて、また冷め始めているかもしれない。
『大好きな人とか、さらっと言うな。』
先生はそう言って、今度は正面からぎゅっと私を抱き締めた。