ありふれた恋を。
『先生も?』
「うん?」
『先生も…自分で人生選んで、その道で幸せにやってる?』
ずっと敬語だった有佐の口調が、最近どんどんくだけてきている。
そのことが嬉しくて、当たり前だろうと思う。
「あぁ、幸せにやってるよ。」
髪をくしゃくしゃっと撫でると安心したように笑う素直さに、俺は今支えられている。
『あの、ちょっと思ったんだけど…』
「何を?」
手を離すとボサボサになっていた有佐の髪に笑いをこらえながら答える。
『どれだけ知ってる人が居ないとこまで行ったって、私が先生のことを先生って呼んでるのは不思議じゃないですか?』
「あー…確かに。」
喧騒の中では誰も気にしないことかもしれない。
だけどたった1人でも気になる人が居れば俺たちは終わりだ。
「じゃあ、何て呼ぶ?」
『弘、くん?』
試すように有佐の顔を覗き込むと、探るようにそう返された目にまたやられる。
俺が照れてちゃ立場ないだろ…。