ありふれた恋を。
「やめてくれる、ちょっと。」
『なんで?』
「その呼び方和哉と一緒だから。」
不満そうな有佐に照れましたなど言えるはずもなく、適当に嘘をついてごまかす。
『じゃあ滝本さんとか?』
「急に苗字かよ。」
『えー?じゃあ普通に弘人さんにするよ。』
それはそれでなかなか良いもんだなと思う俺に有佐の訴えかけるような視線が刺さる。
「俺は有佐のままで良いよな?響きは名前っぽいし。」
『………。』
「分かったよ。」
無言で目を細める有佐に諦めたように声をかける。
「夏波。」
俺なんかよりもずっとはっきりと照れて俯いた姿に仕返し成功だと思い、なんだこのバカップル的なやりとりはと自分で少し呆れた。
有佐…いや夏波と居ると、自分の精神年齢が随分と下がるような気がする。
まぁ家事をほとんどやってもらってる時点で子供だよなと諦めるしかないが。
「さ、準備準備。」
俺が忙しなく動き回っても夏波はしばらくそこに座り続けていて、どんだけ照れ引きずってんだよとおかしくなった。