ありふれた恋を。

「ここは代表戦にも使われるようなサッカー専用のスタジアムだから、こんなに近くで観られることはなかなかないと思うよ。」


日が傾き始め、ライトが灯されたスタジアムに映える芝生の緑がとても綺麗だった。



『あ!誰か出てきた!』


夏波の声と同時にサポーターの歓声がスタジアムに響く。

ウォーミングアップの為に選手たちが出てきたのだ。

ボール回しやシュート練習などをする選手たちの姿、上から降り注ぐように落ちてくるサポーターの歓声。


その光景に言葉にできない想いが込み上げてくる。


もしかしたら自分もこんな場所に立てていたかもしれないという希望と、たとえ怪我をしていなかったとしても絶対に届かなかっただろうという現実。

プロになれる選手は本当に一握りで、そこから試合に出られる選手はそのまた一握りしか居ない。


だけど俺のように挫折した選手は山程いる。



『弘人さん。』


そのとき、俺の手に温かな何かが触れた。



『ほら、たこ焼き食べよう?』


夏波が優しい表情でたこ焼きのトレーを俺の手に乗せている。



< 190 / 264 >

この作品をシェア

pagetop