ありふれた恋を。
まるで全てを見透かしているみたいに微笑む夏波に、俺は何やってんだと思う。
夏波に楽しんでもらう為の旅行で、俺が感傷に浸ってどうする。
サッカーはもう、俺にとってただの思い出になったはずだろ。
「たこ焼きうまいな。」
『うん、さすが本場。』
何を聞くわけでもなく何を言うわけでもなく、ただ隣で笑う。
全てを預けても良いと思えるような、とても懐の深い優しい笑顔だった。
『あぁー 楽しかったー!』
ホームチームの快勝で試合を終え、スタジアムを出ると夏波が満足そうに手を伸ばす。
その手をそっと握った。
「はぐれるといけないから。」
数万人の観客が一気に出てくる中で、離れてしまわないように。
『ありがとう。』
こんなに沢山の人が居ても、誰も手を繋ぐ俺たちに気を留めない。
その中を堂々と歩けることが素直に嬉しかった。
しっかりと繋がれた手を確かめ合いながら歩く夜道は、スタジアムの灯りに照らされとても綺麗だった。