ありふれた恋を。
「眠かったら先に寝ろよ。」
ホテルへ戻るとまず夏波が風呂に入り、湯上がりにソファーでまどろむ横顔に言う。
人混みに長く居た上にはしゃぎっぱなしで疲れただろう。
試合中に一喜一憂していた姿を思い出して自然と頬が緩む。
「手ぇ出すなよ。」
大丈夫だ、ベッドは別だ。
自分に言い聞かすように呟いて、俺だって疲れてるんだから早く寝られるだろうと思い込ませる。
適当に髪を乾かして浴室を出ると、てっきり寝ていると思った夏波はまだソファーに座っていた。
まどろんでなどいない、しっかりと起きている。
さっきスタジアムで買ったタオルを握り締めるその横顔は、今までに見たことがない程の切なさに溢れていた。
一瞬、泣いているのかと焦ったけれど泣いてはいない。
ただ何かに想いを馳せるように俯いている。
楽しかったんじゃないのか…?
初めて見る表情に動揺していると、耳にかけていた夏波の髪がサラサラと流れ落ちてその表情すら隠してしまった。