ありふれた恋を。
「夏波が泣いてるのに、分かった何もないんだなって納得できる程俺は冷たい男か?」
『そんなこと…』
「だったら、正直に話してくれよ。」
その涙に揺さぶられていることを悟られないように声が少し強くなる。
『今日…』
諦めたように話し始めた夏波の言葉ひとつひとつを聞き逃さないように耳をすます。
『今日ここに連れて来てもらえて本当に嬉しかった。弘人さんが好きなものを一緒に見られたことも、手を繋いで歩けたことも。本当に本当に嬉しかったの。でもね…』
でも…
悲しい言葉が続けられるかと思って覚悟したけれど、夏波はふっと緊張を緩めたように笑った。
『私が知らなかった頃の弘人さんを知る人が居るんだろうなって思ったら、ちょっと寂しくなっちゃって。それだけだよ。』
ね、大したことないでしょう?という風に笑いかける顔はやっぱりとても寂しそうで、俺に言葉を失わせた。
夏波が知らなかった頃の俺。