ありふれた恋を。
『じゃあ、先生行くな。早く帰るんだぞ。』
『はーい!先生またねー!』
先生が席を立って、図書室を出て行った。
その時、先生が階段とは逆方向へ歩いて行ったような気がした。
あの、部屋の方へ。
「ねぇ、里沙。私もうちょっと本探したいから、先に帰ってて。」
『え?いいよ、待ってるよ。』
「ううん、いいの。読んで帰りたいから。」
『そう?じゃあ、先帰るね。』
我ながら下手な嘘だと思ったけど、里沙は『また明日~』と言いながら帰って行った。
さっきまで先生を囲んでいた生徒達は『絶対彼女いると思ってた~』と、まだその話で盛り上がっている。
私は、念のため言い訳用に本を借りて図書室を出た。
先生はきっとあの部屋にいる。
周りに誰もいないことを確認してから、小さくドアをノックした。
…けど、中からは何の返事もない。
そっと耳をあててみても、何も聞こえない。
先生、帰っちゃったのかな。
開けてみても、いいよね…?
恐る恐る、ドアを開く。
「先生?」
『有佐…?』
そこには、いないと思っていた先生がいて、お互いを確認し2人の声が重なった。