ありふれた恋を。
「結婚して仕事辞めたのか?」
『違うよ、逆。結婚して仕事が増えた。』
意味が分からないという顔をする俺に賢太が言い辛そうに1度下を向く。
俺への気遣いなんてもう要らない。
その先を聞きたいという思いが溢れてくる。
『相手がなんか有名なカメラマンらしい。』
ふつっ、と糸が切れたような感覚があった。
俺には想像もできないような華やかな世界に生きる人なんだろうという敗北感を覚えることに戸惑っていた。
サッカーで少し有名だった俺を自分のステータスにしていた瑠未。
プロにはなれないと分かると自分には釣り合わない相手だと俺を切り捨てた瑠未。
でも結局、結婚相手に選んだのはプロサッカー選手じゃなかった。
だったら、俺でも良かったじゃん。
なぜ今更そんな想いが湧き上がったのか、どうしてこんなに胸が騒ぐのか、頭に瑠未の顔ばかりが浮かぶのか。
その顔を、必死にかき消す。
俺には夏波がいる。
夏波しかいない。