ありふれた恋を。
『正直枝里も困ってる。ずっと仲良かったみたいに愚痴られても、モデル界のことなんて分かんねぇしさ。』
「悪いな、迷惑かけて。」
『なんでお前が謝んだよ。関係ないだろ。』
完全に無意識だった一言に、賢太の声が少し固くなる。
『なぁ、まだ気持ち残ってるとか言うなよ?枝里が困ってるってグチりたかったのもあるけど、お前が今彼女と幸せにやってるって聞いて安心したから話したんだぞ。』
「分かってるよ。残ってるわけないだろ。」
あるわけがない。
今の俺の中に瑠未を想う気持ちなんて、1ミリだってあるはずがない。
ないんだ。
『あいつ、結婚するまで男関係かなり派手だったって。自分に相応しい相手とか言って、Jリーガーとかバンドマンとかめちゃくちゃ漁ってたらしいから。』
俺の目を覚ますためにわざと言葉を荒くしていることに、余計にその内容の生々しさを突き付けられる。
俺だってその中の1人でしかなかった。
その中の1人にもなれなかった。
絶望するのは、あのときだけで充分だったはずなのに。