ありふれた恋を。
あの日、俺が賢太と再会した日、帰宅しても夏波は来ていなかった。
返信が来たのは翌日で、用ができたので行けなくなりましたという一言。
家族と出かけるのか、友達に誘われでもしたのか、それくらいの軽い気持ちで受け取ったその一言が実はとても重いものだったと知ったのはそれから数日が経った頃。
『なぁ、あいつらやっぱ付き合ってんじゃね?』
放課後の教室に残っている生徒を見つけ、早く帰れよと声をかけようとした足が止まる。
昼休みのお遊びサッカーによく顔を出している2人だ。
『あいつらって?』
『伊吹と有佐。最近また一緒に帰ってんじゃん。』
『あー なんか2人乗りしてんの見たとか言ってるやつ居たな。』
『良いよな〜青春。』
付き合ってる?一緒に帰ってる?2人乗り?
何の話をしているのか、全く付いていけない。
伊吹と夏波が?
いやいや、そんなわけないだろ。
「おーい、早く帰れよ。」
『あ、先生知ってた?』
その話を打ち切るように声をかけると、2人は興味津々という顔で俺にたずねる。