ありふれた恋を。
『伊吹と有佐がやっぱデキてんじゃないかって話。』
「知らねーよ。変な噂話してないで早く帰れ。すぐ暗くなるぞ。」
ついぶっきらぼうな口調になってしまった俺に2人は渋々といった顔で立ち上がる。
明日伊吹に聞いてみようぜ、そんなことを言い合いながら。
実際は全然、そんなわけないだろなんて軽く流せていなかった。
あの日部屋に来なかった夏波は、あれ以来1度も俺の部屋に来ていない。
夏休みが終わって学校生活に忙しくなったからだろうと思っていたが、もっと早くから不自然に思うべきだった。
連絡もほとんど来なくなっていることを。
「有佐。」
翌日、学校の廊下。
1人で歩く夏波を見つけて声をかけた。
「今日俺ん家来い。」
『え…?』
単刀直入にそれだけを言った俺を夏波が驚いたように見上げる。
大丈夫、周りに誰もいないことは確認済みだから。
「待ってるから。」
動きを止めたままの夏波にそう言って、さっとその場を離れる。
ちゃんと話したい、夏波と。