ありふれた恋を。
駅までで良いという瑠未と並んで夜道を歩く。
『旦那さんからメールきてた。』
落ち着きを取り戻した瑠未の声が静かな暗闇に溶ける。
「なんて?」
『いつ帰って来るんだって。』
「ちゃんと愛されてんじゃん。」
車が通り過ぎていく音だけが響く。
夏波は今どんな気持ちで1人待っているのだろうか。
『良い子だね、彼女。』
「良い子だよ、本当に。」
いつも自分が持てる全てを俺に与えてくれる夏波。
瑠未と向き合っていた数分で、夏波の想いは瑠未にも伝わったのだろう。
「夏波と出会ったとき、俺はまだプロになれなかったことからも瑠未のことからも完全には立ち直れてなくて、しばらく彼女なんてできないだろうと思ってた。」
どうしてそんなことを話し始めたのか分からない。
だけど知ってほしかった。
夏波という存在が、俺にとってどれ程大切で大きいものかということを。
「でも言ってくれたんだ。俺を救いたいって。」
あの小さな部屋で、まっすぐに俺を見て言ってくれた言葉。