ありふれた恋を。
ちょうど全てを作り終えたタイミングで玄関が開く音がした。
「ナイスタイミングだ。」
できたてを食べてもらえることが嬉しくてエプロン姿のまま玄関へ行くと、スーツ姿の弘人さんが居た。
「おかえりなさい。」
『ただいま。』
「スーツ、何かあったの?」
朝出て行くときはいつも通りのシャツにジャケットだった。
わざわざスーツに着替えなきゃいけないような用事でもあったのだろうか。
『うん、ちょっとね。』
「ご飯今できたけど、先に着替えるよね?」
『いや…』
曖昧な返事をしてリビングへ向かう弘人さんの背中を不思議な気持ちで見つめる。
いつも学校へ持って行くバッグとは別に大きめの紙袋を持っていて、その中から朝着ていた服が覗いている。
『夏波。』
その2つをソファーに置くと、私と向き合ってポケットから何かを取り出した。
『俺と、結婚してください。』
時間が止まったかと思った。
息をするのも忘れるくらい、その言葉が、その意味が胸に広がっていく。